歯科技工士の実態と離職率!5年以内の離職率は?マジか80%

歯科技工士の離職率について

近年はブラック企業が社会問題となっている。ブラック企業に明確な定義は無いようだが、3~5年以内の離職率が30%以上の企業という定義が一般的であるようだ。

そこで、国家資格を有する歯科技工士の卒後5年以内の離職率は、なんと約80%であると指摘されている。卒後5年以内の離職率が80%であればブラック企業ではなく、ブラック産業といえる。

歯科医療関係者の中では、歯科技工士がブラックなことは長く問題になっていることからも、本記事では歯科技工士の実態を明らかにしていきたい。

では、この歯科技工士は何が問題かを大きく3つに絞り、以下に示す。

  1. 歯科技工士養成学校の卒業5年以内の離職率が約80%と言われる異常な離職率の高さ。
  2. その高い離職率は、超長時間労働、低賃金という就労環境に大きな原因がある。
  3. 高齢化と担い手不足。

簡単に絞ると上記に示した3つが問題といえる。最近では「歯科技工士問題」と題し国会内で集会が行われたりもしている。

また、国会議員が厚生労働委員会などで歯科技工士問題に対し質疑するなど、この問題が歯科医療関係者だけの問題ではなく、社会全体の問題として少し表面化しつつある。

 

 

では次にこの3つに問題を絞り、詳しく説明していく。

 

5年以内の離職率が約75%。

正確な離職率を算出することは難しいが、以下の資料は2008年に日本歯科技工士会が国家資格である歯科技工士免許交付数と就業数の割合から算出したものである。

歯科技工士の免許交付数と就業数

1、年次別免許交付数                       

単位:人

平成9年 平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 小計
交付数 2,749 2,728 2,715 2,441 2,479 13,112

 

平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 小計
交付数 2,657 2,368 2,715 2,209 2,204 11,523

※10年間合計24,635人

 

2、年齢階級別就業歯科技工士数

 平成18年 平成16年
 (1)25~29歳  3,291人 4,125人
 (2)25歳未満  2,417人 2,493人

 

3、歯科技工士の離職率

① 25~29歳:約75%
算出方法

13,112(H9~H13交付者数)-3,291(H18就業者数)=9,821

9,821÷13,112=74.9

離職率=74.9%

 

② 25歳未満:約80%
算出方法

11,523(H14~H18交付者数)-2,417(H18就業者数)=9,106

9,106÷11,523=79.0

離職率=79.0%

※前提条件:各年度の交付者年齢を20歳とする

※資料:「衛生行政報告例」(厚生労働省大臣官房統計情報部編) 

2007.9調査企画部作成

 

 

最近の歯科技工士の離職率

以下のデータは同じ算出方法で2004年~2012年までの歯科技工士の離職率を推計(2年ごと)。

 

  25歳未満 25歳~29歳
2004年 79.2% 70.1%
2006年 79.0% 75.0%
2008年 76.0% 76.7%
2010年 74.2% 75.4%
2012年 85.0% 74.0%

 

最近のデータを見ても歯科技工士の離職率の高さは異常な状況にあり、離職問題が解決の方向へ進んでいるというよりは、むしろ悪化している状態と感じる。

この歯科技工士の離職率の高さは、担い手不足から歯科技工の技術、技能の継承が難しくなり、歯科技工物の質の低下が危惧されることは言うまでもない。

何より、これだけの若者が犠牲になることで、何とか歯科医療を支えているという状況は社会倫理の観点からも当然問題があると考える。

 

 

長時間労働、低賃金 【週70時間以上働く歯科技工士(一人ラボ)が66.2%】

歯科技工士という職業は長く慢性的な長時間労働状態にあり、多くの若手技工士が去っていく最大の原因であることは間違いない。

歯科技工士の離職率の高さの原因は長時間労働にある。

 

歯科技工士実態調査

はじめに示すデータは2年に1度、日本歯科技工士会によって行われる2015年歯科技工士実態調査からの抜粋である。この実態調査は厚労省も把握し、施策に反映されるといわれることから公的なデータといえる。

 

(問) 1週間の残業を含めた就労時間(通勤、休憩、食事等の時間を除く)等。

平均(時間)
全体 61.5
勤務者 55.6
自営者 68.9

 

(問) 他業種に移りたいと思われる理由は何ですか。【上位3回答】

※前問の歯科技工業から離れ、他業に移りたいと思いますか。の問いに対し「非常にそう思う」「そう思う」を選択した方が対象。

1位 給与 71.5%
2位 労働時間 70.8%
3位 将来性 62.8%

 

上記の日本歯科技工士会の実態調査は勤務している技工士(技工所勤務・歯科医院勤務)の割合が大きくなっている。

そのため、多数を占める個人事業者(一人ラボ)の技工士の割合が低くなっていることから、歯科技工士の現状を正確に反映しているかというと、やや疑問に感じる。

 

歯科技工所アンケート

次に示すデータは保団連近畿ブロック歯科技工所アンケートである。

このアンケートは全国保険医団体連合会近畿ブロックにより2015年11月に行われたもので、対象は技工所であり、その多くを占める個人事業者の技工所の現状を反映しているものとなっている。

○開業者の年齢、平均53.4歳

○開業年数、平均23.1年

(問) 1週間の労働時間(開設者のみ)

42時間以内 8.4%
43~50時間 12.7%
51~60時間 11.4%
61~70時間 12.4%
71~80時間 17.6%
81~90時間 15.9%
91~100時間 10.9%
101時間以上 8.9%

 

(問) 1週間のうち休みの日数(開設者のみ)

2日 14.1%
1日 49.4%
ほとんど取れない 28.5%
その他 7.2%

 

(問) 昨年の可処分所得。法人の場合は代表者の報酬。

平均 全体412万円 個人369万円 / 法人635万円 一人技工所345万円

 

高齢化と担い手不足

Ⅰ、後継者

まずは先ほど(2)の同じく歯科技工士実態調査と保団連近畿ブロック歯科技工所アンケートから、後継者の有無についての項目を示したい。

 

(問)後継者の有無。※歯科技工士実態調査

いる いない 決まっていない 無回答
自営者全体 13.1% 72.1 11.8% 3.1%
個人立 10.7% 79.2 8.2% 2.0%
法人立 23.0% 47.1 27.6% 2.3%

 

(問)後継者の有無。※保団連近畿ブロック歯科技工所アンケート

□いる

16.3%

 □いない

78.7%

□その他

2.9%

□無回答

2.5%

 

80% が後継者がいない

いずれの調査からも、特に個人事業者に関しては約8割が「後継者がいない。」という深刻な後継者不足であることがわかる。

歯科技工士の離職率80%と、後継者がいない80%には相関関係がありそうだ。

 

 

Ⅱ、高齢化

次に歯科技工士全体の年齢構成費から高齢化がわかるデータを示す。

上記の表は厚生労働省・平成26年衛生行政報告例から。

この表からは、歯科技工士の年齢構成の比率は50歳以上が約46.5%となっており、これから迎える超高齢化社会、特に歯科の需要のピークと言われる団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、このままいくと供給側の歯科技工士の半分が60歳以上ということになる。

 

 

歯科技工士の離職率問題のまとめ

若い技工士の離職率の問題、高齢化・担い手不足の問題は厚労省も「問題だ」とは言いつつも、何の対策も打てていないのが現状である。

いくらデータを示して問題があることを明確化しても現状ではあまり意味がない。この問題を解決するためには全体的な就労環境の改善を図る具体的な対策を打つことが最も重要で、そのことがなされなければ絶対に解決できない問題であることは明らかである。

歯科技工士専門学校の入学者数の減少が問題ではない

よく、歯科技工士養成学校の入学者数の減少が問題と言われている。そして、入学者数を増やすための活動が、歯科技工士会や専門学校を中心に行われている。

しかし、私はこんな活動では何の解決にも繋がらないと考えている。

なぜなら、まともな就労環境を確立し、離職者を減らせば良いだけの話だからだ。歯科技工士の離職率が80%から20%になれば良いだけだ。そうなれば離職者の復帰も考えられる。

歯科技工がブラック産業化していることが問題の根幹だ。問題をすり替えようとしても新たな犠牲者を生むだけで何の解決にもならない。

歯科技工士の離職率を下げること

歯科技工士の離職率の高さは、若い技工士に根性がないからではない。ゆとり教育も関係ない。

厳しい経済状況のもと、奨学金で国家試験に受かり、免許を手にするときは既に多額債務者である若者も多くいる。

彼らは歯科技工が嫌で去っていくわけではない。肉体的にも精神的にもボロボロになり去らざるを得なくなり去っていく。

残念ながら今の歯科技工業界は、このような若者を使い捨てにせざるを得ない状況のもと、何とか歯科医療を支えているというのが現状である。まさにブラック産業化していると言っても過言ではない。

最後に

歯科技工士養成学校の入学者数を増やしても、ポジティブキャンペーンを行っても問題の解決にはならない。

歯科技工士の離職率が80%でブラック産業なのは構造上の問題なのだから、構造上の問題を解決しなければならない。具体的にどこが問題なのかは、歯科技工士の問題は、歯科保険点数の仕組だった!解決策は?で示したいと考える。

 

 

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歯科技工士の本当の年収は?時給で計算すると170円だった!

この記事では、歯科技工士の実態から求人サイトなどで示されている歯科技工士の年収や労働環境が如何に信憑性の乏しい情報であるかを報告したい。

歯科技工士を目指す方々や、実態を正しく把握したい若手技工士のための「歯科技工士の本当の年収」の情報を提供するために。

 

求人サイトなどでは


「歯科技工士 年収」などのキーワードで検索すると、求人サイトなどで多く示されている歯科技工士の年収は、

求人サイト

  • 平均年齢:40~50歳
  • 勤続年数:10~20年
  • 労働時間:170~180時間/月
  • 超過労働:8~10時間
  • 月額給与30~35万円
  • 年間賞与40~45万円
  • 平均年収:400~500万円

などと示している場合が多い。おそらく根拠となる資料は、

厚生労働省:賃金構造基本統計調査 から算出したものだと考えられる。しかし、鵜呑みにしてはならない。ハッキリ言って参考にならないデータなので、実態を示した正確なデータをこの記事では示したいと考える。

 

実態は以下の通り


まず、気になる「実態」を示した歯科技工士の年収と就労状況を示す。

実態

  • 平均年齢:52~57歳
  • 技工年数:10~20年
  • 労働時間60~90時間/週
  • 月額給与17~33万円
  • 平均年収:200~400万円

※労働時間は月ではなく週なのでお間違えないように。そのため、超過労働は労働時間に含む。

以上のデータの根拠は後で説明するとして、8時間労働で週休2日(一般常識を採用)でザックリ時給を算出すると時給170円ということになる。

「さすがに時給170円は無いやろ」と少しビビッてしまった。そこで、思い切って365日年中無休で働いた場合(一人コンビニのような感じ)の時給も示すと、大幅アップで755円となり、多くの自治体の最低賃金に少し及ばない程度となった。

※だが、本来は8時間労働、週休2日程度で算出するのが一般的だ。社会通念上、365日24時間労働で算出する時給や年収なんかは存在しない。

一言でいうと歯科技工士の業界全体はブラック産業ということは間違いない。

それでは、このデータの根拠を示していこう。

 

歯科技工士の特徴

はじめに求人サイトなどで示されている歯科技工士の年収がいかに実態を反映していないかを示す。そのためには歯科技工士の就労実態がどのような特徴があるのかを知る必要がある。

歯科技工士のほとんどは歯科診療所で雇用されているわけではない。歯科医師は患者さんの歯科技工物(入れ歯や、被せ物)を自分で作るわけではなく、患者さんの歯形を歯科技工所(ラボ)という製作現場に外注委託する。

簡単に言うと、歯医者さんから外注委託され、歯科技工物の製作を「歯医者さんの下請け」として作るのが歯科技工所ということになる。そこで入れ歯などを製作するのが国家資格を持った歯科技工士だ。

そして、この歯科技工所の特徴が、歯科技工所全体の80~90%が1~2人で歯科技工業を営む個人事業という事業形態だ。なので、ほとんどの歯科技工士は個人経営であるという大きな特徴がある。

歯医者さんのほとんどが個人経営で、イオン歯科やセブンアンドアイ歯科のような大型量販店型ではないのと同じイメージだ。

全ての歯科技工物は手作りで制作され、職人仕事であることは言うまでもなく、

  • ほとんどの歯科技工士は歯科医院で雇用されているのではない。
  • 歯医者の下請けとして歯科技工物の製作を請け負っている。
  • そのほとんど(80~90%)が個人事業という経営形態である

という特徴がある。

 

 

実態を反映していない

そこで、歯科技工産業がブラック産業であるという根拠に入る前に、求人サイトなどで紹介されている歯科技工士の年収は「厚生労働省:賃金構造基本統計調査」を基に示してあるが、いかに実態を反映していないかを示す。

まず、この調査の特徴は

  • 対象は10人以上の事業所
  • 区分訳は、10~99人、100~999人、1000人以上

となっている。この時点で歯科技工士(所)の特徴を反映したものではない。

しかし、少数ではあるが大手技工所もある。そこに就職すると良いだけかと思われるかもしれないが、私たちが知る限り、大手歯科技工所が調査結果のような就労環境にあることはない。

では、なぜ実態と調査結果にこれだけの開きが生じるのだろうか?明確な理由は分からないが、私たちはこう考える。

この調査は厚生労働省によって行われている。そして歯科技工士を所管するのも厚生労働省だ。さらに技工所の従業員ではなく、報告するのは技工所の経営者だ。

そのことから、ブラック企業である技工所が、自らを所管する厚生労働省にそのまま「ブラック企業です」と報告するはずがないではないか?

 

 

歯科技工士の年収と労働実態

では、実態はブラック産業であるという根拠を示す。冒頭から繰り返している「実態」ということがカギとなる。歯科技工所の実態を示した調査データがある。

 

歯科技工士実態調査

はじめに紹介するのは、公益社団法人「日本歯科技工士会」が定期的に行っている歯科技工士実態調査というものがある。

実際のデータは、こちらの2015歯科技工士実態調査を参考にしていただきたい。ここから、自営者の労働状況と歯科技工士の年収を示すと以下のようになる。

 

2015歯科技工士実態調査

  • 平均年齢:53.6歳
  • 休日:週0.9日
  • 週労働時間:平均は68.9時間
  • 平均年収:255.3万円

 

この調査は、日本歯科技工士会が3年ごとに定期的に行っている調査だ。

特徴は、歯科技工士会員が対象であるということだ。日本歯科技工士会の歯科技工士全体に占める会員比率は30%程度で、ベテランの技工士が多く、会費を支払っていることもあり「比較的豊かな技工士」と言われている。

 

歯科技工所アンケート

次に紹介するのは全国保険医団体連合会が行った「2016 年歯科技工所アンケート」というものから歯科技工士の年収を示したものだ。実際のデータは2016年歯科技工所アンケート調査結果と概要報告を参考にしていただきたい。

 

2016年歯科技工所アンケート

  • 平均年齢:55.77歳
  • 休日:週1 日が48.2%、ほとんど取れない30.5%
  • 週労働時間:71~80 時間が16.3%、61~70 時間が14.5%
  • 平均年収:317万円(300万円以下が53%)

 

このアンケートの特徴は、全国2,454件の歯科技工士(所)がアンケートに答えており、過去に類を見ない規模で実施されたのアンケートであることだ。

また、歯科技工士会の会員、会員以外関係なく行っている調査なので、最も業界の現状を反映していると言える。

また、このアンケートでは膨大な数の自由コメントを集め公開している。データだけでなく現役技工士の生の声が集められている貴重な調査結果だ。

 

 

歯科技工士の年収と実態のまとめ

まずは、歯科技工士の年収や労働実態の貴重な調査・アンケートを実施されいる日本歯科技工士会と全国保険医団体連合会に心より敬意を表したい。

双方の調査結果からは、過労死ラインを大幅に超える超長時間労働であるという実態が明らかになっている。そのことからも日本の歯科医療は歯科技工士の過重労働によって支えられていると言ってもよい。

そして、この調査結果は厚生労働省も日本歯科医師会も把握しているが、特に対策をとる姿勢は見られない。特に日本歯科医師会に至っては、闇献金問題や迂回献金問題と「政治と金」の問題を牽引している「自分たちさえ良ければよい」との考えの問題団体であることは明らかだ。

 

若い技工士が犠牲に

歯科技工士の年収や時給を実態に合わせて算出すると、歯科技工士の就労環境はとんでもなく劣悪な状況であることが分かった。

そして一番の被害者は若い技工士たちだ。「歯科医療を通じて社会に貢献したい」と夢と希望をもって歯科技工士という職業に就くこととなった彼らの約8割は5年以内に離職する。脅威の離職率8割をたたき出すブラック産業化を牽引しているのは誰なのか?

離職率8割の詳しい記事はこちら👉歯科技工士の実態と離職率!5年以内の離職率は?マジか80%

彼らは歯科医療にかかわる者たちの「見て見ぬふり」と「他人事」というような関わり方により未来を奪われている。

私が良い歯医者とは?と問われると、若い歯科技工士のような弱い立場のために勇気を持って行動する歯科医師と答える。そういう歯科医師は、困っている患者さんに対しても同じように接することが出来ると思う。

インテリ気取って辱めもなくしょーもない話をする歯医者ではなく、少数派であってもこのような歯科医師を応援したいし、そのような歯医者が患者さんから評価されるような情報を発信していきたいと考える。

 

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